2016年 「デミタス」英詩研究会

経専27期 高橋雄四郎

新宿で英詩研究会を主催している。実践女子大学・文学部・英文学科を70歳定年退職以前からすでに20余年たつ。経専27期時代の友人が当初から今日まで応援参加。尤もN氏は幽明さかいを異にし、H氏は腰痛で最近欠席つづき。3人目のH女子は毎回必ず出席。明るい性格なので存在感がある。

「デミタス」の名称の由来は、“Coffee”飲みながら英詩を語り合わないか?というかるい気持ちからきている。食後のコーヒー用の小型カップ=demitasseに因む。さらに遡ると、この27期の3名は何れも佐藤順夫先生と関係が深い。恩師をめぐる若き日の友人関係が、英詩を通して70-80代までに一貫して繋がってきていることを意味している。

会は“Monthly”。1回2時間。予め決めてあるEnglish Poetryのテキストから、適当な名詩を1篇選び、それを講読、解説する。聴講者は毎回、6-7名程度。登録会員は10名。実践の教え子が中心だが、上野丘出身の早稲田の卒業生もいる。多くは18歳の入学当初から、こんにちに至る長いお付き合いとなる。家族同様の雰囲気に溢れている

新宿で20有余年。会場を確保するのは容易ではない。毎回、比較的静かな席がら得られるのは、係の人の好意と教養による。暑気払い、忘年会は高島屋14Fで行う。眺望、雰囲気ともに抜群。永年、場所を変えないから、待遇もしっかりしている。

詩の解説はつねに多岐にわたる。人生の辛酸を弁えている聴き手のこと。先月、A・テニスン(1809-1892)“Crossing the Bar”「砂洲を越えて」を読んだ。この作品は港の入り口に横たわる砂洲に潮が満ち、死後、人間の魂の乗る船が音もなく沖合へ出て行くタイミングを歌う。死への旅立ち、そのあらまほしきすがた。下記のうたが参考になる。

熱田津にきたつ船乗ふなのりせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎでな」 (万葉集・巻1・8 額田王ぬかたのおおきみ)

遣唐使の旅立ちを歌ううたである。熱田津―四国松山市、和気・堀江付近。天地人の最高の状態のときに船出するのが良いと云っている。植物成長の最適の状況を”Optimum”「オプチマム」という。遣唐使の乗る船は熱田津で船出の時期を待った。この詩は正にその船出の最高の瞬間を捉えている。死もまたテニスンによれば永遠に向かう旅立ちとなる。70-80代の聴き手にとって死はひとごとでない。

こうしてテニスンを通して、死は天国に向かう永遠の航海への船出と知る。そこに暗さはない。詩人は死を悲しまないで欲しいと語りかけている。愛する家族、親しい友。よき読書習慣によって充実した精神生活を送り、己れに相応しい仕事を社会に残せれば、死はむしろ誇らしくなる。死後、わたくしたちは甦ることも可能であると示唆するのがプラトンである。星座を含め、ギリシャ神話の面白さもこの点にあるのかも知れない。

(実践女子大学名誉教授)